最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)1290号 判決 1969年6月17日
上告人
大塩しん
代理人
武並覚郎
被上告人
黒田博
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人武並覚郎の上告理由一について。
本件の原判決の判決原本に各裁判官(三名)の署名捺印のあることは、本件記録中の電話徴収書により明らかである(当事者に対する判決の送達は正本をもつてなすべきことは民訴法一九三条二項の定めるところであるから、該正本には裁判官の署名捺印を要しないことは明らかである。また、上告の提起があつた場合、控訴審の判決については、原本ではなく正本を記録に添付して上告審に送付すべきものである(最高裁判所昭和二五年一月二六日第一小法廷判決、民集四巻一号一一頁参照)。そうとすれば、原判決には所論の違法はないから、論旨は採用できない。
同二について。
上告人が本件土地を被上告人の前所有者小川郁三から賃借したこと、および上告人が大塩義一が有していた賃借権の譲渡を受け、または転借したことは、いずれもこれを認めるに足りる証拠がない旨の原審の認定判断は、原審および第一審の取り調べた証拠に照らして首肯できる。そして、右認定の過程において審理不尽の違法はない。そうとすれば、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同三について。
所論は、上告人が本件土地に対する賃借権を有すること、また本件各建物の買取請求権を有することを前提にして憲法二九条違反を主張するものであるが、上告人が右賃借権および買取請求権を有しないものであることは前記および原判決の認定判断に照らして明らかであるから、右違憲の所論は前提を欠くものといわなければならない。したがつて、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 下村三郎 松本正雄 関根小郷)